2022年1月15日 公開
2022年1月16日 最終更新
▲上りダイヤ |
▲下りダイヤ |
■路線概要
阪急宝塚線は大阪の中心地である大阪梅田駅と兵庫県宝塚市にある宝塚駅を結ぶ郊外型の路線で、中間には豊中市をはじめ池田市や川西市といったベットタウンが広がっています。そのため、朝ラッシュ時間帯では梅田方面へ向かう上りの利用者が多いのに対して、宝塚方面へ向かう下り列車は比較的空いている印象があります。また、上り列車については先述の通り住宅地からターミナルへの利用が多いため、十三・大阪梅田に近づくほど混雑が増してくるのも一つの特徴です。(これらは郊外型路線の一般的にいえることです。)
阪急電鉄の主要路線では、他に神戸線と京都線がありますが、これらはそれぞれ大阪⇔神戸あるいは大阪⇔京都という大都市を結ぶ都市間路線であるため、ラッシュ時間帯でも両方向への需要が相当数ありますが当路線は片方向利用が主であること、神戸線や京都線と比較してもJRとの競合が激しくないことも大きな特徴かと思います。また、優等列車でも連続的に停車するような停車駅設定がされていますが、特に川西能勢口~豊中間は利用者が非常に多い駅が連続している(しかもこれらの駅の利用者数にほぼ差はない)ことは他社を見渡してもこの路線特有の状況かもしれません。
■上りダイヤの全体像
阪急宝塚線のダイヤは16分サイクルで組まれており、16分の間に、特急日生エクスプレス(以下、日生特急)・通勤特急・急行・準急・普通2本(池田駅始発と豊中駅始発が1本ずつ;以下、池田普通・豊中普通)が運転されております。京阪神を走る私鉄は各社ともラッシュ時間帯は多様な種別を設定しており、シンプルでわかりやすいダイヤというよりもきめ細やかな需要に対応したダイヤを組んでいるのが特徴で、当路線も同様です。ただし、宝塚線の場合、朝ラッシュの上り夕ラッシュの下り以外は土休日も含めて急行と普通の2種別しか運転されていないことを考えると相当なギャップを感じますね。
先述の通り郊外型の路線ですので、都心に近づくほど列車本数が多くなり、遠近分離を考えたダイヤが組まれております。宝塚線ではそれに加えて、十三・梅田へはすべての駅で16分に2本以上の有効本数が確保されており、1本以上は乗換えや待避なしで利用できる非常に考えられたダイヤになっております。実際に列挙してみると以下の表のようになります。(実際に下記の駅から梅田へ行こうとする気持ちになって、ダイヤ図と並べてみてもらえるとわかりやすいかと思います!)
有効本数と乗換え・待避なしの本数は16分(1サイクル)あたりの本数。
★印:十三・大阪梅田まで待避なしで利用可能。蛍池駅の※印:箕面発の普通はピーク前にのみ設定(詳細は後述)。
豊中駅で通勤特急に乗り換えることで十三・大阪梅田まで先着。
以上のように、郊外の駅から十三・大阪梅田への利便性を重視されており、遠近分離により利用者の分散を図るとともに都心への速達性も考えられたダイヤであると思います。
それでは種別ごとにもう少し細かく見ていきましょう。
■上りダイヤの種別ごとの解説 (ダイヤ図と見比べながらご覧ください)
特急日生エクスプレスは能勢電鉄の日生中央駅発で、川西能勢口駅から阪急宝塚線に乗り入れ、大阪梅田駅まで向かいます。以前は川西能勢口駅で2両を増結して阪急線内は10両編成で運転しておりましたが、利用者減少と停車時間短縮のため現在は能勢電鉄線内でも阪急線内でも8両編成での運転となっています。
阪急線内では、川西能勢口・池田駅・石橋阪大前駅に停車した後は十三までノンストップ。大阪梅田駅と十三駅を除けば宝塚線内で最も利用者が多い豊中駅を通過する唯一の種別です。最速達種別として、都心からやや遠い能勢電鉄線内・川西市内・池田市内から梅田方面へ向かう列車としての役割があります。
なお、ダイヤについては、川西能勢口駅等で後続の準急に乗り換えることができ、曽根駅で普通を追い抜きます。
通勤特急は現行ダイヤでは宝塚線で唯一10両編成(他はすべて8両編成)で運転されており、川西能勢口駅始発で、池田駅、石橋阪大前駅、豊中駅、十三駅に停車します。急行との停車駅の違いは蛍池駅に停車するか否かという点のみですが、蛍池駅は8両編成までしか停車できないため通過となっております(他にも理由があるかもしれませんが)。なお、曽根駅で普通を追い抜きます。
川西能勢口始発というのはおそらくですがJR川西池田駅との競合を考え、着席サービスと速達性を踏まえてのことだと思います。なお、雲雀丘花屋敷以遠から接続を受けることはありませんので、この列車を利用できる人は限られております。
通勤特急は途中駅始発であることに加え蛍池を通過する等、他の優等列車と比較しても利用されにくい傾向にありますが、10両編成としているのは女性専用車両を設定しているため、雲雀丘花屋敷駅から出庫しやすく増結の手間も必要ないからということが考えられます。ちなみに余談ですが、2015年までは宝塚発の通勤急行(停車駅:石橋までの各駅、豊中、十三)が設定されていましたが、雲雀丘花屋敷で増結して10両編成で運転していました。通勤特急は通勤急行の運転区間を短縮し、増結の手間を省くものとして置き換えられたという歴史的な背景もあるのかと思います。とはいえ、あくまで個人的な感想ですが10両編成というのは少しミスマッチなのかなとは思います。
急行はいわずもがな宝塚線を代表する主力種別です。豊中まで各駅に停車しますが、雲雀丘花屋敷までの区間は利用者が少ないこともあり各駅停車としての役割を、川西能勢口~豊中間は宝塚線内でも利用者が多い駅から梅田方面への速達種別としての役割をそれぞれ担っております。なお、特急日生エクスプレスや通勤特急と違い、途中普通を追い抜くことはありません。また、豊中駅から十三まではノンストップですが、池田駅始発の普通と接続していますので通過駅への利用もスムーズに乗り換えることができます。
こちらも余談ですが、先述の通り2015年までは蛍池駅を通過する通勤急行(雲雀丘花屋敷から10両編成)が設定されている他、箕面発の通勤準急(停車駅:箕面線内各駅と石橋、蛍池、豊中、十三)が設定されておりましたが、これらを統合する形で急行が設定されました。それまで朝ラッシュ時間帯には急行は運転されておりませんでした。
準急は宝塚駅発で曽根までの各駅と十三、中津に停車します。神戸線の準急は中津駅には通過しますが、宝塚線の準急は停車します。理由はよくわかりませんが、ダイヤ上通過するメリットがほとんどなく、山本駅等から中津駅へ利用する場合を考えると急行や準急を利用することになりますが、十三駅で待ち時間が比較的長くなってしまうことを懸念して停車しているのかと思われます。
また、準急は急行の補完をするとともに、岡町・曽根から十三・梅田への速達種別としての機能も持っております。岡町駅や曽根駅は準急が通過する庄内駅等と比較すると利用者は少ないですが、庄内駅等と比較して都心から離れていますし、庄内駅等は利用者が比較的多いからこそあえて普通のみの停車にして乗客を分散させることを目的として停車駅を考えているのだと思います。なお、急行同様途中で普通を追い抜くことはありませんが、豊中駅で始発の普通と接続しているため通過駅への乗り換えも考慮されています。
普通は16分に2本設定されており、内1本は池田駅始発、残りは豊中駅始発となっています。いずれも途中待避は曽根駅で特急日生エクスプレスまたは通勤特急に追い抜かれる1度のみで、優等列車の比率が高いにも関わらず比較的待避が少ないです。宝塚線で普通しか停車しないのは服部天神・庄内・三国のみですが、この時間帯は曽根でしか待避を行わないので、この3駅から大阪梅田までは必ず先着することができ、待避パターンをよく考えられたダイヤとなっています。
豊中駅始発の普通はピーク時のみに設定されており、ピーク前は箕面駅始発、ピーク後には1本のみ池田駅始発(いずれも豊中駅からは豊中駅始発の普通と同様のスジ)として設定されています。なお、箕面駅または池田駅発の場合は豊中駅で後続の通勤特急に乗り換えることができるので、蛍池駅からの有効列車として機能します。個人的な意見ですが、蛍池駅の利便性も考えて、豊中発の普通と池田発の普通はスジを入れ替えたほうがいいのではないかなと思います。
完全に余談にはなりますが、ダイヤ改正を経るごとに箕面線に直通する列車が減っていますね。箕面線直通列車は以前は前述の通り通勤準急(停車駅:箕面線内各駅と石橋、蛍池、豊中、十三)がありましたが、現在では普通のみでしかもピーク前の設定となっております。そもそも需要が少なかったからなのか、運用の効率化なのか不明(おそらく両方なのでしょう)ですが、今後完全に廃止されることになるのか気になるところではあります。
以上を踏まえ、下表で種別ごとに主な役割・機能を整理してみました。前述の通り種別ごとに明確な役割があり、これらが適切に棲み分けがされていることから、「きめ細やかな需要に対応したダイヤ」になっていることが少しでも分かっていただければ幸いです。
▼種別ごとの役割・機能
■下りダイヤについて
繰り返しにはなりますが、阪急宝塚線は郊外型の路線で、朝ラッシュ時間帯の利用は上りが主です。また、上りは宝塚駅~三国駅の各駅では降車より乗車の割合が高く、利用者は十三・梅田まで乗車する人が多いという特徴がありますが、下りダイヤについては乗車駅・降車駅ともに上りと比較すると分散傾向にあるかと思います。そのため、上りのような多様な種別を設定した複雑でかつ各駅から都心への利用を第一に考えたダイヤというよりも、下りは比較的簡素でどの区間も比較的平等に利便性が確保されたシンプルなダイヤが組まれています。
ダイヤ図をご覧いただければ分かるかと思いますが、上り同様16分サイクルで組まれていますが、その内訳は急行が2本、普通が3本となっています。ダイヤ図では普通がすべて雲雀丘花屋敷行きと掲載しておりますが、実際は列車によって行先は異なりますので、詳細を知りたい方は阪急HP等の時刻表をご覧ください。なお、列車本数についてですが、上りは16分に6本設定されていますが、下りでは1本が回送列車として折り返します。これは、十三駅のホームドアが8両編成までしか対応しておらず、10両編成を営業列車として運転できないので上りの通勤特急は折り返し回送列車となります。
急行は2本とも庄内駅で普通を追い抜きます。普通についても2本は当然庄内駅で急行の待避がありますが、1本は終着駅まで先着します。個人的な意見ですが、普通3本の内、2本は急行の直後を発車し、終着駅まで先着するダイヤとすれば、利便性は向上するかと思います。
余談ですが、2015年までは上りと同様に朝ラッシュ時は急行ではなく蛍池を通過する通勤急行(一部は10両編成での運転/停車駅:十三、豊中と石橋からの各駅)が運転されていた他、箕面線への送り込みとして通勤準急(停車駅:十三、豊中、蛍池、石橋と箕面線内各駅)が設定されており、2018年までは準急箕面行きや準急雲雀丘花屋敷行きも運転されていました。
■まとめ
阪急宝塚線は梅田という日本有数のターミナルと豊中や宝塚といった郊外を結ぶ路線です。そのため、朝ラッシュ時間帯は都心へ向かう上りの利用が多く、その中でも多数は十三・大阪梅田まで利用します。このことを踏まえ、上りは各駅から十三・梅田へ向かう利用を第一に考えるとともに、乗車駅ごとにきめ細やかな需要に対応したダイヤとなっています。具体的には、多様な種別が設定されているとともに、どの駅からも必ず十三・梅田へ先着する列車が設定されていることに表れています。その一方で、下りは上りと比較して利用者がそれほど多くないことや乗車駅や降車駅が分散傾向にあることから平等な利便性確保のためシンプルなダイヤが組まれています。
本当によく練られたダイヤだと思いますが、個人的に気になるところを挙げるとすれば(非常におこがましい・・・)「①通勤特急の10両編成は必要か」「②池田駅始発の普通と豊中駅発の普通を入れ替えたほうがいいのではないか」「③下りの待避なしの普通を16分あたり1本から2本にできないか」ということくらいでしょうか。
①については、利用者目線では8両編成より10両編成の方がいいに決まっているし、事業者目線でも女性専用車両の設定と10両編成の増結の手間をなくすというメリットはあるのは承知していますが、他種別と比べあまり混雑していないのに長編成というところが引っかかるというくらいです。
②については、豊中駅始発の普通を池田駅始発にした場合、蛍池駅からの利用は当列車に乗車した上で豊中駅で通勤特急に乗車することができ、有効本数が増加します。蛍池駅ピンポイントではありますが、利便性が向上することを考えると始発駅を入れ替えたほうがいいのではないかと思います。あるいは①も踏まえて、通勤特急を8両編成化した上で蛍池駅にも停車(急行に置き換え)した方が話は早いのかもしれません。
③については8分毎に急行を運転しているため、3本ある普通の内2本が急行の直後に発車して終着駅まで逃げ切ることができれば、有効本数も増え、利便性が向上するのにと思います。当然折り返し等ダイヤ上の支障はあるかと思いますが。
繰り返しにはなりますが、本当によく考えられたダイヤで見ていて面白いダイヤです。1つ1つに理由があり、利便性も最適化されているように思え、私も個人的に大好きなダイヤです。